大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成5年(行コ)198号 判決

静岡県伊東市十足六一六番地の二三七

控訴人

猪狩守

右訴訟代理人弁護士

池田眞規

静岡県熱海市春日町一-一

被控訴人

熱海税務署長 都築知也

右指定代理人

矢吹雄太郎

大西信之

信太勲

松井運仁

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人の昭和六三年分所得税について平成二年五月二日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  当事者双方の主張は、次の二を付加するほかは、原判決「第二 当事者の主張」(原判決二枚目表三行目から一一枚目裏六行目まで)と同一であるから、これを引用する。

二1  原判決六枚目裏三行目の次に「(主位的主張)」を加える。

2  原判決八枚目表七行目の「そして、」の次に、以下を加える。

「連帯保証人らが、死亡した主たる債務者の債務の保証債務を履行するために連帯保証人の資産を譲渡した場合において、死亡時の主たる債務者の資産が債務超過であるときは、「求償権を行使することができない」ものとして、所得税法六四条二項を適用すべきであり、」

3  原判決八枚目裏終わりより二行目の次に、改行して以下を加える。

「 なお、控訴人主張のような見解がとれないとしても、控訴人が、保証人としての地位に基づいて、千代田ファクターに対する控訴人の保証債務を弁済したことにより、主たる債務者の債務の二分の一を相続した礼子に対して取得した求償権は、これを行使することはできないから、所得税法六四条二項を適用すべきである。」

4  原判決九枚目裏六行目の次に、改行して以下を加える。

「4 保証債務を履行するために資産を譲渡し、その履行に伴う求償権の行使が全部又は一部を行使することができないときは、その行使できない金額はなかったものとみなし、課税対象としない旨の保証人保護のための所得税法六四条二項の規定を控訴人に適用しないことは、「一般の保証人」と「子である債務者の死亡により債務者の相続人となった保証人」を債務者の死亡という事実を介在させて差別して扱うものであり、子の死亡を差別事由として、これを不利益に扱うことになるから、憲法一四条に違反するものとして許されないというべきである。

債務者を相続する保証人に対する所得税法六四条二項の適用について、その相続の形態と保証の形態によって多様な適用範囲の相違をもたらし、その結果債務保証制度に関連する同法六四条二項の適用に極めて不均衡な差別を持ち込み、相続という不測の事態により、その保護の存否あるいは保護の内容の理由のない差別をもたらす解釈は、憲法一四条に違反する。」

(当審における予備的主張)

1  控訴人は、浩の死亡後、昭和六二年一〇月一三日から昭和六三年六月ころまで、浩がアメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ市において設立した法人である三洋トレーディング・カンパニー(米国法人、以下「三洋」という。)が事業主体となって行っていたレストラン「将軍」の店舗を利用して、レストラン「将軍」の営業を行ったほか、浩が行っていたホットエル・リゾート開発事業を浩の相続人として承継し、事業用地の買収のために浩が締結した土地売買契約についての清算を行った。

2  控訴人は、米国での前記1の事業の遂行により、合計八億七九二〇万二九一二円の営業上の損失を被ったものであり、これを所得税法六九条に基づき損益通算すると、控訴人に対する課税所得は存在しない。

控訴人の譲渡所得から控除されるべき損失は次のとおりである。

(一) 三億七〇〇〇万円

浩が千代田ファクターから融資を受けて渡米前に三洋に送金した三億七〇〇〇万円であり、三洋の社長ペレスらにより横領され、回収不能の損害を生じた。

(二) 一億五四一二万二一〇〇円

控訴人と礼子らが、浩の死亡後、事業継続のために、米国に送金して費消したもの。

(内訳)

(1) 昭和六二年一二月一六日 八九九一万五〇〇〇円

礼子からノースNBC銀行の控訴人の口座へ送金

マーバックのレストラン「将軍」の店舗の改修・増築費用

(2) 昭和六三年一月二〇日 二五九四万円

礼子からノースNBC銀行の控訴人の口座へ送金

(3) 同年四月一五日 二五〇四万円

控訴人から浩二の口座へ送金

(4) 同月二八日 二八九万八〇〇〇円

控訴人から従業員中島マス子へ支払い

(5) 同年五月三一日 八八三万七五〇〇円

礼子から控訴人へ

(6) 同年九月七日 一三万五六〇〇円

控訴人からD・スティーブンソン弁護士へ支払い

(7) 同年一〇月一九日 一三五万六〇〇〇円

(三) 三億五五〇八万〇八一二円

浩の事業についての控訴人らの累積債務の合計」

2  原判決九枚目裏七行目の次に「(主位的主張について)」を加え、同一一枚目裏七行目の次に、改行して以下を加える。

「(当審における予備的主張について)

控訴人らは、浩が米国において営んでいた「三洋」の事業を継続して行ったものであり、右法人の事業から生じた損失を控訴人の譲渡所得から控除する余地は全くない。

そもそも、控訴人が主張する損失の額は、控訴人らが連帯保証人となって浩が千代田ファクターから借り入れた三億七〇〇〇万円と控訴人らが米国に送金した金員(浩の生前に送金したものも含む。)の合計額であって、米国の事業にかかる所得の金額の計算上生じた損失金額ではない。」

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の請求を棄却すべきものと判断するが、その理由は、次の二のとおり付加訂正するほかは、原判決「理由」(原判決一一枚目裏終わりより二行目から一七枚目表四行目まで)と同一であるから、これを引用する。

二1  原判決一二枚目表一行目の前に「二 控訴人の主位的主張について」を加え、同一行目の冒頭の「二」を削除する。

2  原判決一五枚目表六行目冒頭から同八行目「主張するが、」までを、次のとおり改める。

「 なお、控訴人は、連帯保証人らが、死亡した主たる債務者の債務の保証債務を履行するために連帯保証人の資産を譲渡した場合において、死亡時の主たる債務者の資産が債務超過であるときは、「求償権を行使することができない」ものとして、所得税法六四条二項を適用すべきであり、主たる債務者である浩の相続財産が少なくとも三億円近くの債務超過であったから、控訴人は保証債務の履行に伴う求償権の全部を行使することができないこととなった旨主張するが、連帯保証人が、死亡した主たる債務者の債務の保証債務を履行するために連帯保証人の資産を譲渡した場合において、死亡時の主たる債務者の資産が債務超過であるからといって、当然に、所得税法六四条二項にいう「求償権を行使することができない」場合にあたるとはいえないから、控訴人の右主張は採用することができないうえ、」

3  原判決一五枚目表五行目及び同裏終わりより二行目の各「主張立証」をいずれも「立証」と各改める。

4  原判決一六枚目裏三行目の次に、改行して以下を加える。

「 5 なお、控訴人は、被控訴人に対し、所得税法六四条二項の適用を認めない解釈は憲法一四条に違反する旨主張するが、保証人が相続放棄することなく、主たる債務者の地位を相続により承継し、主たる債務者としての地位に基づく責任を負担するに至った場合に、当該保証人が相続により主たる債務者としての地位を有するにいたったものであることを考慮にいれ、所得税法六四条二項所定の「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」に該当するかどうかを判断することは、何ら不合理なものはないというべきであり、また、このような取扱は、子の死亡による相続という事態を差別の事由としてその相続人を不利益に扱うものとはいえないから、憲法一四条に反するとはいえない。したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

三 控訴人の予備的主張について

控訴人は、控訴人が米国で事業を行ったことを前提として、出捐した金員に相当する損失を被ったとして損益通算の主張し、当審における控訴人本人尋問の結果にはこれにそう部分があるが、右証拠をもって、控訴人らが営利の目的をもって、人的・物的設備を設けて、自らの責任において企画をたてこれを反復継続して遂行するなどの社会通念上事業を行ったと認められる程度の行為を行ったことを認めるには足りず、控訴人主張の損失が、控訴人の事業の遂行によるものと認定することはできないというべきであり、他にこれを認めるべき証拠は存在しないから、控訴人の右主張は採用することができない。」

4  原判決一六枚目裏四行目の冒頭の「三」を「四」に改める。

三  以上のとおり、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。

よって、控訴費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、九八条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柴田保幸 裁判官 伊藤紘基 裁判官 滝澤孝臣)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例